ヒロイモン
「なんだ、これ」
小学校からの帰り道、千沙(ちさ)は道端に落ちているダンボール箱の中に、まだら模様が入った卵を発見した。卵は毛布に包まれ、こんな文句が入ったメッセージカードが添えられている。
拾ってください。名前はまだありません──千沙はそれを見て、誰かが卵を捨てたのだと判断した。
「ひどい人がいるのね」
模様からして、ただの卵ではない事が分かる。おそらく、持ち主は訳あって捨てざるを得なかったのだろうが、それにしても無責任すぎる。千沙は学校で金魚の世話をしているので、こういった事が許せない。生き物の命をなんだと思っているのかと、持ち主に言ってやりたかった。
「・・・確かに、ちょっと不気味だけど」
もう一度、卵を良く観察する。白地に灰色のまだら模様が入った、直径三十センチほどの卵である。どう考えても、鶏卵の類ではなさそうだ。
「ワニとかの爬虫類系ね、これは」
千沙は小学六年生。将来は生物学者を目指しているので、この出会いは運命だと思った。本来であれば、卵は拾得物として交番に届けなければならないが、この場合は学術的見解から、しばしの猶予が与えられてもいいと考える。つまりは、卵に興味が湧いてしまったというわけ。
「拾っていこう」
にんまりと笑って、卵をランドセルの中へしまい込む千沙。そして、辺りを見渡した後、足早に家路についたのであった。
「君の名前はヒロイモンにします」
帰ってすぐに、千沙は卵にそんな名前をつけてやる。拾った物だから、ヒロイモン。いかにも小学生らしいネーミングセンスといえよう。
「孵化するかな?今、寒いから春まで駄目かな」
卵は千沙の勉強机の上に鎮座し、毛布を巻かれていた。温めてやったら孵るかもしれないと、少女の好奇心が募る。
「ワニかイグアナだったらいいな・・・」
結局、その日は何の変化も現れなかったので、千沙は夜が来ると懐中に卵を抱き、眠ってしまった。その晩、彼女は生物学者になって、ノーベル賞をもらう夢を見たという・・・
「わああ!な、なんだ、これ?」
翌朝、千沙は胸元にある『何か』の感触で目が覚めた。その『何か』は、ぐにゃりとゴムマリのような質感を持っていて、何となくぬるぬるしている。千沙は慌てて飛び起き、カーテンを開けて朝日を部屋に注ぎ込んだ。すると──
「ああ!」
千沙の目に、見るも愛らしい小型生物の姿が映った。そう、これは昨日彼女がヒロイモンと名づけた、あの卵のなれの果てである。
「孵ったんだ・・・やったあ!」
手を合わせ、ぴょこぴょこと飛び跳ねる千沙。そしてベッドの上で自分を見るヒロイモンに顔を近づけて微笑んだ。
「あなたはヒロイモンよ。あたしは言うなれば、あなたのママってところね」
ヒロイモンはワニをデフォルメしたような、非常に愛らしい容貌をしており、爬虫類の生物が持つ禍々しさは一切無い。肌がぬめるのは乾燥を防ぐためだろうが、臭いもなく気になるほどの物ではない。一見すると、人に危害を加えそうな要素は持ちあわせていないようだった。
「キュピ?」
ヒロイモンが鳴く。この時、首を傾げてお愛想のような仕草も見せた。まるで、生きたぬいぐるみのようにその動作が愛らしい。
「カワイイ!」
思わずヒロイモンを抱きしめる千沙。もう、学術的見解はどこへやらで、ただの可愛いもの好きの小学生になってしまっていた。
「キュ、キュ、キュ」
抱きしめられたヒロイモンの目が笑った。しかしその様は、謀をうまく運ばせた悪党のごとく卑しいものだった。しかも、千沙がもう一度目を合わせた時は、再び愛らしく振舞っている。どうもこの生物、腹に一物含んでいるように思えてならない。
「ねえ、お腹空いてない?」
千沙にそう問われると、ヒロイモンは頷くような仕草を見せた。言葉を理解しているのだろうか──と、なればますます怪しい。
「キッチンに行けば何かあるわ。ちょっと待ってて」
自室を後にし、千沙はキッチンに向かう。その背中を見送ってから、ヒロイモンは急に人相をあらため、
「ふう、チビッコの相手なんぞ、やっとれんわ」
と、いきなり喋りだした。それも、ドスの利いた関西弁を・・・である。
「拾われた相手があんなチビッコやったとは、ワテの運も尽きたかな」
部屋をぐるりと見渡すと、いかにも少女らしい佇まいが窺える。ヒロイモンは唸った。
「ワテ、どうせならこう、ムチムチプリンの女子大生とかがよかったんやけどなあ・・・
あんなガキにどうせいっちゅうねん」
今時ムチムチプリンである。どうやらヒロイモン、案外年を取っているようだ。
「少し世話んなったら、出てくかナ。今ん所、行くアテも無いしな・・・」
ふんっと手バナをかんで毒づくヒロイモン。実はこの生物は、宇宙でも鼻つまみものとして名高い、コバンワニ星人である。その名が示すように、彼らは他の星に住み着き、衣食住をその星の知的生物にたかるという性質を持っている。その上、女をたらしこみ、ヒモのような生活をさせてもらうのが得意ときているので、始末が悪い。
「ヒロイモン、菓子パン食べるかな?バナナもあるけど」
千沙が戻って来た。するとヒロイモン、すぐさま愛らしい表情になって、笑顔なんぞを作った。案外、役者なのかもしれない。
「いい、ヒロイモン。ママに見つからないようにネ」
「キュウ」
千沙は学校に行く時間が迫ると、ヒロイモンをベッドの上において念を押した。まだ言葉がきちんと理解できている訳ではないだろうが、今のところヒロイモンは何でも言う事を聞いている。千沙はこの生物に、知性があるのだと理解した。
「行って来るね」
ヒロイモンにちゅっとキスをしてから、千沙は家を出て行った。時計の針は午前八時を指したところ。ここから、コバンワニ星人の長い一日が始まる。
「さて、ちょっくら家ン中、徘徊させてもらいまひょか」
ベッドから降り、千沙の自室を出るヒロイモン。驚く事に、二足歩行だ。
「文化レベルはまあまあやな。食いモンが美味いのはありがたいが」
家の中は、平均的な売り住宅の間取りである。広くも無いが狭くも無いといった家屋内を、ヒロイモンは進んでいく。その目的は食料だった。
「菓子パンなんぞ、腹の足しにならんわ。やっぱり、肉を喰わんとなあ」
コバンワニ星人は鼻が利くので、すぐさまヒロイモンは食料のあるキッチンを発見したのだが──
(おっと。誰かおるやんけ)
キッチンのシンクのあたりに人影を認めたヒロイモンは、身を隠してそちらを覗い見る。
すると、そこにはいい感じに熟れた女の姿があった。
(ええケツしとるな。この星の標準的なメスやな。あのガキの母親か・・・)
それは、千沙の母親である千草(ちぐさ)だった。三十七歳という年齢の割には若々しく、美しい女性である。
(ウマそうな肉が、ありまんがな・・・)
ヒロイモンは足音を立てぬよう、静かに千草の下へ迫った。
「あら・・こんなところにぬいぐるみが」
千草は振り返ったとき、足元にワニのようなぬいぐるみが落ちている事に気がついた。
そしてそれに手を伸ばした瞬間──
「かかったな!」
「きゃあ!」
なんとぬいぐるみは、関西なまりのある言葉で叫びながら、千草の体へ飛び掛ったのである。
「おとなしくしとき!へへへ、気持ちよくしたるさかいな!」
「いやあッ!なに、これ?ぬいぐるみが、しゃべった?」
見た目は可愛いが、その本質は悪党と何ら変わらぬヒロイモンは、千草を手早くキッチンの床へと押し倒した。ここから、犯される女と犯す男の格闘が始まる。
「お、おもちゃじゃないのね?あなたは、何者?」
「ワテか?ワテはあんさんの娘はんにひらってもらった、ヒロイモンちゅうもんじゃあ!」
びりりと千草の衣服が剥かれた。小兵ながらヒロイモン優勢。
「何をする気なの?離しなさい!」
ここで千草がボスッとヒロイモンにボディブローを喰らわせる。もしこの場にジャッジがいれば、イーブンの判定が下されるトコロ。
「やったな、このアマ!」
腹を殴られたヒロイモンがいきり立つ。そしてすぐさま千草の顔を、ワニ風のしっぽでぴしぴしとはたいた。
「あうっ!」
突然の暴力に頬を庇う千草。思わず両手で顔を覆ったのだが、その隙をつかれた。
「手間かけさせんなや!縛ったる!」
なんとヒロイモンの背中から、無数の触手が伸びてきた。その触手が罪人に縄を打つように、千草の全身を戒める。どうやら彼は、とっておきを隠していたらしい。
「ああっ!」
千草の体が浮き、テーブルの上に乗せられた。哀れ、まさにまな板の上の鯉という状態に、彼女は追い込まれてしまったのである。
「手間ァかけさせた分、楽しませてもらうさかいな」
「うう・・・こッ、このケダモノ」
千草はテーブルの上で両手足を四方に引っ張られ、磔刑にかけられるような形となっている。衣服はほとんどが剥かれてしまい、素肌に残っているのはオレンジ色のパンティとブルーのブラジャーのみ。
「下着の上下がそろっとらん所見ると、あんさん案外不精やな。それか、旦那はんにあんまり可愛がってもらえんのと違うか?」
にやけるヒロイモン。言い方が非常にオヤジくさい。
「あなたに関係ないでしょう!」
噛み付く千草。しかし、ヒロイモンの言葉は図星であった。下着の上下がそろっていないのは、ここ数年亭主とあまり接しなくなったからだ。つまり、女をサボっているという事。誰に見られる訳じゃないし、別にいいわ──そんな気持ちが、心のどこかにあったのだ。
「まあ、ワテが可愛がってやるさけ、楽しんだってや。あんさんも嫌いってワケとちゃうやろ、オメコ」
「ああ・・・いや」
オメコ──なんて恥ずかしい響き。千草は思わずヒロイモンから顔をそらし、目を閉じた。
「オッパイとクリちゃん、どっちをいじって欲しい?」
「・・・・・」
千草は答えない。人の妻として、女として、こんな質問に答えられるはずがなかった。
「答えんと、ケツの穴いわすで」
びくっと千草が身を竦める。ヒロイモンの言葉が心を脅かした。
「・・・む、胸を・・・」
千草はそれだけ言うのが、精一杯だった。
「ほな、いくで」
枝分かれした触手が、千草の白い肌に帯びる。まずは、豊満な乳房がその餌食となった。
「あんさん、名前教えてや」
ブラジャーを剥き、生の乳肉を触手で味わいながら、問うヒロイモン。一方、千草はすでに歯向かう様子も無く、素直に答えた。
「・・・千草よ」
「ええ名前やな。惚れたで」
ぬめる直径一センチほどの触手は、乳房を締め上げるように絡みつき、その先で乳首をぎゅうぎゅうと絞る。どうやらヒロイモンは、彼女のそれに乳腺を見たようで、まるで搾乳せんとばかりに、力を込めていた。
「あんさん、乳でまへんの?」
「で、出るわけないでしょ!妊娠もしてないのに」
「そっか・・・ワテ、母乳大好きでんねん。飲みたいなあ」
ニ、三秒考え事をした後、ヒロイモンは別の触手を千草の下半身にしのばせる。そして、パンティを剥いてしまうと、膣穴に向けて一番太い触手を伸ばしていった。
「い、いやッ!何をするの?」
女肉を掻き分けられ、触手が膣内を遡ろうとしている。千草は恐怖で震えた。
「いや、ワテの触手な、媚薬が出せまんねん。これをメスが仕込まれると、母乳が出るようになってな、快楽倍増、健康増進ってなるんや。まあ、言うよりやってみたほうが早いわナ」
「やめてえッ!媚薬なんていやよ!」
「そう言わんと。病み付きになるでェ・・・」
「イヤーッ・・・」
どくどくと膣内に、ねばりのある粘液が放たれた。その刹那、千草は足の付け根を中心にして、淫らな疼きが体中を駆け巡っていくのを感じた。それが媚薬である事は、ヒロイモンの説明によって分かっている。しかし、媚薬がどういう役割を果たし、自分の体をどう変えていくのかが、千草は恐ろしかった。
「う・・・ううう・・・いやあ・・・」
媚薬らしき粘液で、膣内をひたひたに満たされた時、千草は軽い絶頂を得る。しかし、これが今より始まる淫らな宴の序章に過ぎない事は、彼女自身も気づいてはいなかった・・・・・
「ああッ!ひいッ!す、すごい!すごいわァ・・・」
媚薬が効き始めてすぐ、千草は狂乱状態になった。思考能力は落ち、ただ快楽を求めて腰を振る、あさましい一匹のメスと化したのである。その上、妊娠もしてないのに、触手に絞られた乳首からは、白濁液が溢れていた。もちろん、媚薬の効果である。
「ええ按配や。あんさんのお乳、めっさうまいでェ」
「ああ!吸って!もっと、吸ってェッ!」
千草は背をそらし、ヒロイモンのすべてを受け入れる体勢でいた。両足は左右に開き、もはや触手に戒められる事さえ快楽に繋がっている。ヒロイモンは千草の体にすがりつき、ひたすら母乳を吸っていたが、
「そろそろ、引導渡したらなカワイソウやな」
そう言うや否や、しっぽの根元から見るも禍々しい男根を登場させた。
「これ味わったら、もう元の世界には戻れへんでえ」
「ああ・・・戻らなくてもいいから・・・それ、ちょうだい」
千草は両足をばたつかせ、淫らなおねだりをする。女唇はすでに淫液ではげしく濡れそぼり、女肉はぐずぐずにほぐれていた。ヒロイモンの男根は、三十センチはあろうかという逸物である。その大砲が今、千草の花弁を掻き分けて、女穴に穿たれようとしている──
「いくでえ。オメコの力、抜きなはれ」
「は、入ってくるわ・・アア・・・」
「じわじわいくからな。とどめ刺すんは、コレを味わってからや」
今度はヒロイモン、尻尾を出してきた。千草の膣内に入っている巨大な男根よりも太った、丸々とした肉の塊である。
「こっちは、ケツにいくからな。穴、緩めんと使いモンにならなくなるで」
ヒロイモンは尻尾を千草の菊門へあてがった。何ということだろうか、この生物はふたつの穴を同時に塞ぐつもりなのだ。
「千草、オマエはワテのもんや。ヒロイモンさまのチンポちょうだい、て言うてみ」
「ああ・・・ヒロイモンさまぁ・・・おチンポちょうだぁい・・・」
「ええ子やな。たっぷり可愛がったる」
ぐぐっと男根と尻尾に力が込められた。そして千草は、人妻の身でありながら、他の異性に抱かれる事となる──
「ただいまあ」
午後四時。千沙が帰ってきた。もちろん、留守番をさせておいたあの生物が気になるので、真っ先に自室へと向かう。
「ヒロイモン!」
「キュッ!」
千沙が戻ると、ヒロイモンは愛らしい仕草で彼女を迎えた。言葉は喋らないが、親愛の情を表すように、手足と尻尾をばたつかせている。
「ただいま。あたしが居なくて、さびしくなかった?」
「キュウ~・・・」
千沙の問いに、いかにも寂しげな表情で答えるヒロイモン。もちろん、寂しかった訳では無い。ただ、しばらくここへやっかいを決め込むことになれば、羊の皮を被っていた方が何かと都合がよいので、そう振舞っているだけだ。言葉は徐々に覚えるふりをして、少女を喜ばせてやってもいい。妙な打算が、この生物を後押ししている。
(オマエの母親は、いい味だったぜ。へへ、おおきに)
そう思いつつ、ヒロイモンは微笑む。事実、いい思いが出来たので、千沙にはいくら感謝してもしたりないくらいだった。何より、感謝するだけならば、金はかからない。他の生物にたかる事が生業の、コバンワニ星人ならではの考え方だ。
(それに、しばらくは千草の体も楽しまなアカンしな)
結局、ヒロイモンは犯し抜いた千草を、己が奴隷とする事に決めた。コバンワニ星人が持つ特性を生かし、淑女を娼婦に仕立て上げるつもりなのだ。そうなれば、千沙にお愛想を決めて、せいぜい可愛がってもらえればありがたい。所詮は子供、うまく騙し通せるだろうと、ヒロイモン自身も思っている。
(そのうち、オマエも喰ってやるさ)
にやりと笑うヒロイモン。やはり、その笑顔は悪党のものだった。しかし、そうとも知らず千沙は満面の笑みを返し──
「これからもよろしくね、ヒロイモン」
「キュウ!」
と、得体の知れない生物と、友誼を誓い合うのであった。