リアルポケモンクライシス
テラス越しにホライズン。俺は今、通っている学校のテラスから、街ゆく人々を見ている。
「ふははは!地べたを這う人間どもが、アリに見えるわ!」
諸兄にも経験があると思うが、俺は高い所に上るたびにこのセリフを放つ事にしている。
人を見下す性癖がある訳じゃないけど、まあ、洒落って事で納得していただきたい。
おっと、高校二年生にもなって自己紹介を忘れるところだった。
俺の名は大澤幸長。ここ、私立けたぐり高校に通う、ちょっとお茶目な十七歳の少年である。
勉強はまるで駄目だが、スポーツなら何でもOK。空手部に所属し、一応、部長なんぞも務めているのであります。
「・・・お、大澤」
む。誰かが俺の名を呼んだ。まだ自己紹介が終わってないのに。
「なんだ、横山か。何か用か・・・って、どうしたんだ、お前。怪我してるじゃないか」
俺を呼んだのは、同じ空手部の横山という男。しかし、奴は何故か体中に傷を負っていた。
「化け物に・・・や、やられた」
横山はそう言って、倒れこんだ。はたして、化け物とは?
「しっかりしろ!何があったんだ?化け物って何だ?」
「か・・・科学部のヤツラが・・・リアルポケモンを作るとかいって、色々な動物の遺伝子をかけ合わせて・・・キメラを作っていたらしい。そいつらが暴走して・・・」
「学校の中で暴れてるのか?」
「そ、そうだ。俺も化け物とやりあったんだが、力及ばず・・・大澤、みんなを助けてくれ」
横山はそれだけ言うと、気を失ってしまった。
「すぐに保健の先生を呼んでやるからな!待ってろ!」
俺はテラスから廊下を抜け、階下にある科学室を目指して走り出す。おそらく横山は満身創痍の状態をおして、俺に学内の危機を告げにきたのだろう。
しかし、横山とて空手使い。リアルポケモンとやらに、手もなく捻られるとは思えないのだが・・・
「キャ───ッ!」
階段を下りた所で、耳を劈く女性の悲鳴が聞こえた。方向からすると、科学室のあたり。
俺は自分を落ち着かせる意味も含め、あえてムーンウォークで悲鳴がした場所へと向かう。
フーッ!
「うお!なんだ、こりゃあ?」
科学室の前まで来た俺は驚愕した。なんと、女生徒ばかりが数匹の化け物に襲われているではないか。
「い・・・いやあ・・・やめて」
「お、大澤クン・・・助けてェ・・・」
女生徒の中に、知った顔が何人かいた。皆、化け物に犯されて泣いている。それを見た俺は頭に血が上り、まず一番手前にいるピカチウって感じの化け物めがけて、蹴りを放ったのだが──
「ピカッ!」
化け物が叫んだ瞬間、俺の体は雷光に包まれた。そういえば、そいつは黄色い体をしており、いかにも電撃系の攻撃をしそうである。し、しびれる!
「ぎゃふん!」
電撃で廊下の端まで吹っ飛ぶ俺。なんと、けたぐり高校空手部主将のこの俺が、蹴りの一発も放てないうちに、のされてしまったのである。
「ち、ちくしょう・・・」
体に力が入らない。幸い、生きてはいるが、とても襲われている女生徒たちを助けられそうにはない。俺は歯噛みした。
「あッ!あッ!いや・・・入ってくる!やめてーッ!」
床に寝転ばせた女の子に、一匹の化け物が体を重ねていく。そいつは食虫花を思わせる姿で、実の部分からよだれのような物を、だらしなく垂らしている。俺はこいつをパックソ・フラワーと命名した。哀れにも女の子は無理矢理下着を剥がれ、ごつごつとこぶのついた触手で犯されている。
「やだッ・・・ぐすん、ママぁ・・・」
俺の位置からは、ちょうど女の子のアソコに出入りする触手が見える。ウラヤマシイ・・・
ではなく、恨めしい。化け物の分際で人間様をなぶりものにするとは、なんたるちあ、サンタルチア。しかし、いまだに体が動かせない俺に、何が出来る訳でもなかった。
「た・・・助けて・・・大澤クン」
もう一人、パックソ・フラワーに捕われている女の子がいる。なんとそれは、我が空手部のマネージャーではないか。以前、俺は彼女に土下座して、ちょっとだけおっぱいを触らせてもらった事がある。軽く揉む程度だったが、彼女はほがらかに了承してくれたのだ。
だから俺は命を賭してでも、化け物に立ち向かわねばならない。
「マネージャーに何のまねじゃ・・・この、化け物め・・・」
少しだけ体力が戻っている。俺は壁を背に立ち上がり、パックソ・フラワーに襲い掛かった。
しかし──
「ぐわッ!」
ビシン!と袈裟懸けに、やつの触手が俺の体を打った。その衝撃は肩から背まで抜け、俺は再び地へ伏せる。もう、立ちあがれそうにない。
「キャーッ、大澤クン!大丈夫?」
自分も危ない目に遭っているというのに、俺の事を案ずるマネージャーに萌え。とか言ってる場合ではない。俺がへたっている間に、パックソ・フラワーの野郎が、自慢の触手で彼女を逆さ吊りにしたじゃねえか!
「ああ・・・は、放して!」
マネージャーは手足をピーンと伸ばされ、パックソ・フラワーに逆さ磔となるような格好になった。当然、スカートはめくれ、白い下着が丸見えとなる。えーと、カメラ付き携帯はどこやったっけ・・・
「だ・・・駄目ッ!うああ・・・」
マネージャーは下着をずらされた後、まず細身の触手に襲われた。彼女の股間を中心に、三百六十度すべての方角から、触手は伸びている。その数は、ぱっと見で数十本。
これはたまらないだろう。
「いッ・・・んむむッ・・・」
マネージャーは歯を食いしばり、触手を拒もうとしているようだった。しかし、体の自由を奪われ成す術がない彼女に、いかほどの抗いが出来るというのだろう。それはともかく、携帯はどこやったんだっけ。尻のポケットにもないな・・・
「ああ───ッ・・・」
急にマネージャーが目をむいて叫んだ。彼女の股間を凝視すると、細い触手が束ねられるようにまとまり、それがアソコへ垂直に突き込まれている。エロ小説的な表現をお借りすれば、女の急所に肉の杭を打ち込まれたような状況だ。
「マネージャー!」
「お、大澤クン・・・み、見ないで」
触手はマネージャーのアソコを優雅に、それでいて激しく犯していた。
ぬぬぬ・・・というかぬららら・・・というか、表現しがたい肉音が、俺の耳にも届いている。ホント、携帯どこやったっけ・・・せっかくのシャッターチャンスなのに・・・俺のバカ!
「ハアッ・・・ハアッ・・・ウウッ!」
マネージャーの息遣いが荒くなっていた。触手は相変わらずまとまり良く、アソコを出たり入ったりしている。気のせいか、その触手が濁った粘液できらめいているように見える。まさか、彼女感じてるんじゃ・・・
「ィ・・・ャ・・ァ・・」
声を潜め、迫ってくる何かに怯えるマネージャー。それはまさしく絶頂という名の予感・・・
いや、そんな風に俺には見えるのだ。だって、お股がビショビショなんだもの、彼女。
「ア──ッ!」
ぐんとマネージャーの背が反った。やっぱり、感じていたのだ。俺は化け物にいかされた彼女に同情しながら、カメラ付き携帯を探し続ける。チクショウ、やっぱり無い。どこかに落としたらしいな。ツイてない。
「はううッ!あう、あうッ!」
ビクビクと波打つマネージャーの体。間違いない。彼女はイッている。その時、俺はパックソ・フラワーが微笑むのを見た。しかもあの野郎、俺を見て笑ってやがる。オマエの女、寝取ってやったぜ、とでも言わんばかりに。
「ちくしょう・・・」
力なき正義は無力である。俺は結局、マネージャーを守る事が出来なかった。いや、ここにいる女の子たちの、ただの一人も守れなかったのだ。そう思うと、不覚にも涙が頬を伝った。情けないと心の底から自嘲した。
それからしばらく、俺は化け物に犯される女の子を見続けていた。最初は泣き叫んでいた女の子たちも、化け物に犯されるうちに段々と言葉を発しなくなっていた。ただ、全身を化け物どもの粘液にまみれさせ、喘ぐばかりである。
「・・・・・」
言葉が無いのは俺も同様だった。体は動きそうだが、とても化け物相手に立ち回れる自信はない。だから、見ているしかなかった。そうしていい加減、女の子たちが犯された頃、廊下の向こうから二つの影がこちらへ走ってきた。
「だ・・・誰だ?」
二つの影は人だった。おそらくこの騒ぎを聞いて、かけつけたのであろう。しかし、空手部でも猛者と言われているこの俺を、いともたやすくいなした怪物どもを、たった二人でどうするつもりなのか。あんたらの気概は買うが、警察か自衛隊を呼んだ方がいい。俺はよっぽど、そう言ってやりたかった。けれども、化け物どもはその二人を見て、すぐさま恐慌に陥った。
「ピカー!」
まず、ピカチウっぽいやつが逃げ出した。続いてパックソ・フラワーとその他の化け物も逃亡を図る。無論、女生徒はすべて放り出して。
「逃がさん!いくぞ、弟よ」
「おうっ、兄者!」
二つの影は左右に分かれ、化け物を追う。二人はどうやら兄弟のようで、丸っこい口ひげを生やしていた。あ、あれは、まさか!
「類児、右へ回れ」
「うむ。真理男兄さんは、左を頼んだよ」
二人は色違いのオーバーオール姿で、左官屋風の出で立ちをしていた。実を言うと、俺は彼らを知っている。二人はこの近所に住む乳バンド職人で、お兄さんが真理男、弟が類児といい、人呼んで、スーパー真理男・ブラジャーズ。かつてはビッチ姫を救うべく、ビビンバ大王に戦いを挑んだ男たちである。
「ピカチウゲットだぜ!」
「ピカー!」
お兄さんの方、すなわち真理男さんがピカチウっぽい化け物を踏みつけると、
「パックソ・フラワーもだよ、兄さん」
弟さんの方、すなわち類児さんもパックソ・フラワーを押さえ込んだ。気がつけばその他の化け物も踏みつけられたり、火で燃されちゃっている。俺が、ひと蹴りさえ浴びせられなかったやつらを、なんとこの二人は一瞬で片付けたのである。そして、犯されて呆然となっている女の子たちに、優しく声をかけた。うーむ、強いだけではなく、とてもジェントリー。
「大丈夫かい、お嬢さんたち」
真理男さんはそう言って、微笑んだ。が、しかし、オーバーオールのチャックが開いており、1UPキノコが出ちゃっている。巨大化こそしていないが、かなり絵的にやばげ。というか、もうアウト!
「何かあったら、また我々を呼んでくれたまえ。それじゃあ」
スーパー真理男ブラジャーズはそう言って、ピョーン、ピョーンと飛び跳ねながら去って行った。
二人は時々、天井に向かってパンチをかまし、コインを出すと凄まじい勢いでそれを回収した。
うーん、Bダッシュ。とにかく、なんとか怪物は消えたので、俺はこそこそと女の子たちの方に歩み寄る。気まずいが、知らぬ顔も出来なかった。
「マネージャー・・・平気か?」
「ううん、平気じゃないけど、命に別状は無いわ。他の子もそんな感じよ」
女の子たちは化け物の間を何度も回されたので、アソコが開いたままだった。誰もがぐずついた肉穴からとろりと粘液をほとばしらせ、足元を濡らしている。それを見た俺は、暮れなずむ夕日を指差して言った。
「・・・なんだったんだろうな、64DDって」
「それを言うなら、ツインファミコンだって・・・」
気がつけばマネージャーと俺は、固く手を握り合っていた。しかし、空からゲームが降ってくるあのシステムについては、何一つ話す事は無かった。