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蜘蛛女の奇妙な休日(妖魔夜行)

朝、あたしは目覚ましの鳴き声で目を覚ますと、自分の脚が寝床の中で蜘蛛のものに変わっているのを発見した。
いつもの事なのでもう驚く事でもない。
下半身が蜘蛛になっているだけだ。
もう一度目を閉じて心を落ち着かせるとすぐに人間の脚に戻った。
あたしの名前は穂月湧。
心はいたって普通の高校生だ。
残念ながら体の方はごらんの通り普通というわけにはいかなかったけども。
穂月家の血をひく女性はごくまれに蜘蛛女になるのだ。
こんなこと言われても、ハア?と思うだろう。
そりゃそうだ、あたしだってそう思うと思う。
けどなっちゃったもんは仕方ない、嘘であって欲しいのはあたしの方だ。
こんな話を聞いてすぐに納得した上
喜ぶのはわたしの父さんみたいな変人だけだろうしね。
まあ、ホント言うとわたしだって蜘蛛女の全てが嫌なわけじゃない。
暗闇でも見えたり、すごく耳がよくなったりしたのは役に立つし
色んな特殊能力だってけっこう便利なものだ。
けど、それはいつでも自分の意志で変身できたらという条件付きの話。
ちょっと言い方がおかしいかな?変身するのはいつだってなれるんだから。
問題は戻れなくなる事なのだ。
エッチな気分になると人間に戻れなくなる、というのが嫌なのだ。
おかげで下着をはいて眠れないし(いつエッチな夢みるかわかんないからね)
下手なこと考えるわけにはいかないし、恋愛だってできない。
大好きな三条院先輩が卒業する時も告白できなかった。
かといって諦める事もできなかったけど。
普通の人間のままだったら付き合えたわけじゃないだろうけど少なくともアタックする事ぐらいはできたのに。
そう思うと自分の体が恨めしくなるのも仕方ないと思わない?
あたしの恨み言をさえぎるようにピンクのトリケラトプス型目覚ましがもう一回ギャオーっと鳴き出した。
目覚ましを止めるとタンスから下着をとりだす。
毎朝のこの作業のたびに自分が変態っぽくて嫌になる。
あたしだって好きでノーパンじゃないんだからね。
ぼやきながら下着を履き終わるとある事に気が付いた。
今日は日曜日。その上、今日から連休だ。
くっそー、なんか損した気分だ。
目覚ましの設定をいつも通りにしていたあたしが悪いんだけどさ。
あーあ、せっかく三条院先輩の夢見てたのに。
…三条院先輩の通う体育大学の校門で待つあたし。
(一回、見に行った事があるんだよね)
そこに三条院先輩がさわやかな笑顔を見せながら走ってくる。
『待ったかい?』
『ううん、今来たとこ』
ホントはずっと待ってたくせに夢の中でもいじらしいあたし。
そして二人で並んで歩こうとすると、たくましい手があたしの肩に置かれて…
おっと、いけないいけない、履いたばっかりのパンツ破いちゃうとこだった。
はぁ、空想すら自由にできないなんて改めて自分の体がうらめしい。
なんだか寝直す気にもなれないから、朝ご飯でも食べようと思って顔を洗ってリビングに行くと、なんとすでに父さんがいた。
平日でもあたしが家を出る前に起きることなんて無いのに。
「おはよう」
「おお、おはよう」
父さんはあたしをちらっと見るとまたすぐにテレビの方に向き直った。
なんだろうと思ってテレビを見ると、気持ちの悪いぶよぶよの物体が映っていた。
『未確認巨大物体が南米で発見!!その正体とは!?』
という派手なテロップが踊り、どっちかというとテレビカメラの方に興味を持っている人々の間で、興奮したおじさんがリポートしていた。
そういえばなんかニュースでやってたな。
巨大なぶよぶよが南米の海岸に打ち上げられたとかなんとか。
なんとなく父さんが早起きしている理由がわかってため息をついた。
あたしが妖怪だとわかる前から妖怪はいると信じきっていたくらい父さんは妖怪大好きなんだけど、実はUMAとかも大好きなんだ。
といっても、ネッシーはいる、とかいう風に思ってるんじゃなくて
ネッシーももしかしたら妖怪かもしれんな、という風に思って好きなのだ。
今テレビで特集されてるこの巨大ぶよぶよも
UMAの死骸なんじゃないかって説があるらしい。
それで父さんは早起きしてこの特集番組を見たかったんだろう。
馬鹿馬鹿しくなってあたしはテレビから目を離した。
食パンをオーブンにいれて冷蔵庫から牛乳を出す。
朝ご飯の方が巨大ぶよぶよよりも大切だもんね。
焼きあがったパンをかじりながらテレビを見ると
画面はすでにスタジオの中へと切り替わっていた。
何の漫画を書いてるのかわからない漫画家とか
何の映画を撮ったのかわからない映画監督とか
笑えないお笑いタレントとかが何かコメントしている。
その下らないコメントを聞いてるとあたしはラウを思い出した。
ラウってのは前に知り合った巨大な蛇のような胴体に触手がある心を読める優しい妖怪だ。
あの見るからに怪物のような外見のラウを見たらこの人達なんて言うんだろう?
めちゃめちゃビックリするんだろうな。
ラウはいい奴だからこんな奴らに紹介なんかできないけど
このしたり顔で講釈をたれてる人達が驚く顔は面白いかもしんないな。
ま、子供っぽい考えなのはあたしだってわかってるけどさ。
そんな事考えてたらテレビの中のアシスタントの女の子が
『未確認生物の死骸って話もあるんですよ~』
とのん気な口調で言った。
するとコメンテーターの一人のおじさんが呆れたような声を出した。
このサイズの生物が未確認だなんてどこに住んでいるのか、とか
餌はなんなんだ、とか怒ったような口調でまくし立てている。
そんなことアシスタントの女の子が知るわけないじゃん
とテレビにツッコミそうになった。
未確認生物って言ってるんだからわかるわけないのに。
要するにこの人はUMAなどいない、
と言いたいんだろうけど論点ややり方が思いっきりずれてるんだよね。
父さんみたいな妖怪・オカルト大好きなのも困るけどこういう人も困っちゃう。
あたしの存在を否定されてるみたいじゃない。
実際、存在を信じられなくなったら妖怪は消えちゃうらしいし。
ひとりで怒鳴ってるおじさんを無視して
テレビはスポーツコーナーに変わった。
あー、もう今のコーナー終わっちゃったんだ。
しかも、あんな終わり方で。
あたしは嫌な予感がして父さんの方をちらっと見たらやっぱり不機嫌な顔をしていた。
そして予感は的中し、あたしはこの後たっぷりと父さんが思うUMA論というのを聞かされた。
全くもってつまらない始まり方をした日曜日。
そんな今日が人生最高の日曜日になるなんてこの時は想像すらしていなかった。
新幹線が駅を出た。
次は新神戸。
ようやく目的の地に着く。
なんでこんな所にいるかって言うと
霧香さんから一本の電話がかかってきたからだ。
『人間にする妖術をもった妖怪がいる』
そんな内容の電話だった。
実は詳しく覚えていない。
初めは霧香さんが何を言ってるのかわからなかった。
わかったらもう、どこに行けばいいのか
どうすればいいのか聞いていたと思う。
危険かもしれないとか霧香さんは言ってたような気がするが気にしない。
このまま、誰とも付き合えず蜘蛛女のまま一生を過ごすくらいなら
多少の危険には目をつぶれる。
新幹線代も痛かったがなんとかなった。
今の時間から出かけたら帰ってこれないかも知れないけど
幸いな事に学校は明日も休みだ。
人間になったらどうしよう、とか本当になれるのかとか
期待と不安で色々な事を考えてたら、新幹線が速度を緩め停車した。
新神戸駅。
新幹線から降りたあたしはまっすぐ改札口へ向かった。
初めて来た所だが周りを観察している余裕なんて今のあたしには無い。
スポーツバッグを担いで改札を出ると霧香さんを探した。
周りを見渡してもどこにもいない。
駅で待ってるって言ってたのに。
キョロキョロしていると格好いい男の人がこっちに歩いてきた。
どうしよう、あたしの方を見てるような気がする。
気のせいじゃない、明らかにあたしを見ている。
格好いい男の人がまっすぐに
あたしを見ているという事に胸がドキドキし始めた。
「失礼ですが穂月さんでしょうか?」
もう少し遅かったらあたしはこんなとこで変身しちゃってたかもしれない。
すごく丁寧な口調で話し掛けてきたその男の人はそれぐらい格好良かった。
「あ、はい。そうです。あの霧香さんの・・・」
しまった。声がうわずった。
「はい、龍宮寺隆です。よろしくお願いします」
そういって龍宮寺さんは頭を下げた。
こんな挨拶をされた事が無かったあたしは
どうしていいかわからなくてうろたえてしまった。
差し出された手を慌てて握り返した。
「お疲れのところ申し訳ありませんが早速案内させてもらいます。
少し歩きますが、いいですか?お疲れでしたらタクシーを使いますが」
すごく丁寧な話し方だが気障っぽくはない。
あたしよりちょっと年上ってぐらいなのに、なんかすごく『大人』って感じの人だ。
「あ、だ、大丈夫です」
返事をすると龍宮寺さんは遠慮する暇も与えずに
あたしのバッグを持って歩き出したので
慌てて龍宮寺さんの後をついていった。
この格好いい人も妖怪なんだろうか?
一体、何の妖怪なんだろう?
あたしは妖怪と人間を見破る能力はない。
龍宮寺さんの背中を眺めながら考えたが答えがでないので
あたしを気遣って振り返ってくれた時に思い切って聞いてみた。
「あの龍宮寺さんも・・・?」
誰に聞かれているかわからないのでこんな言い方をした。
「いえ、違います」
すると龍宮寺さんは悲しそうな苦しそうな顔でこう言った。
龍宮寺さんが嘘を言ってないとすれば、龍宮寺さんは真人間という事になる。
あたしの頭の中を色んな疑問が駆け抜けていった。
人間なのになぜ妖怪の仲間なのかも不思議だが
それ以上にさっきの悲しそうな表情が不思議だった。
レンガ作りのお洒落なアンティークショップの前につくと
龍宮寺さんがここが神戸のネットワークの<かすみ>だと教えてくれた。
店内に入ると爽やかな匂いが充満している。
その匂いとは不釣合いに落ち着いた内装の店内に
霧香さんと大樹さんと<かすみ>のマスターの和田夏樹さん
(多分だけど龍宮寺さんから聞いていた通りの外見なので)がいた。
「よく来てくれたわね」
「霧香さん!あの、本当なんですか?人間に戻れるって」
あたしは挨拶も忘れて霧香さんに駆け寄った。
失礼だったと思うけど、この時のあたしはそれほど余裕がなかったのだ。
だって、人間になれるかもしれないって聞いてきたんだもの。
「正確にいうと人間の姿になる、という事なんだけど・・」
霧香さんはそういって大樹さんの方を振り返った。
大樹さんの話は長いので簡潔にまとめさせてもらうと
「妖怪というのは妖怪の姿が本当で人間の姿は仮の姿。
だから、ただ妖術を封印されたら人間の姿になれなくなるけど
今度、出てきた奴は相手を人間の姿に固定して
妖術を使えなくする奴」なんだそうだ。
そうなのだ。
あたしは断固として認めたくなかったけど
本当の姿は妖怪の方で人間の姿は仮の姿なのだ。
だから、今まで人間になれなかったのだ。
(人間が本当の姿なら霧香さんに映してもらえばいいもんね)
この後も何か色々と霧香さん達は言ってた。
あたしも聞こうとは努力したが耳に入ってこなかった。
「人間の姿に固定される」ってなんて素敵な響きなんだろう。
危険が無いわけじゃないとか、そんなものはどうだっていい。
あたしはこれから人間の姿に固定される。
その素晴らしい作戦にうっとりして店を出た。
霧香さんの探知したその妖怪の居場所というのは
神戸の繁華街だった。
現場付近に来ると霧香さんは離れて観察すると言い
あたし達から離れていった。
そのせいで夜の繁華街で龍宮寺さんと二人きりだ。
ここらへんで立ってたらそのうち向こうから来るというので
あたし達は道の端っこで待っている事になった。
本当にあたしは人間になれるんだろうか?
店を出る時は有頂天になってたあたしだけど
今になって不安になってきた。
霧香さん達の話によると問題の妖怪はどうやら敵のようだし
人間にするなんてあたしの望み通りの事をちゃんとしてくれるんだろうか?
「大丈夫ですか?」
声の方を向くと龍宮寺さんが優しい顔であたしを見つめていた。
あたしの不安を読み取ったのだろうか?
あたしが大丈夫だと言うと
龍宮寺さんは微笑んで人の行き交う通りに顔を向けた。
並んで立っているあたし達の前を腕を組んだ男女を通り過ぎた。
カップルかあ、いいなぁと思ってみているとあたしはある事に気がついた。
もしかしてあたし達もそういう風に見られてるんじゃない?
その考えはあたしの顔を熱くし胸をドキドキさせた。
三条院先輩に悪いような気がしたけど
(付き合ってもいない人に悪いも何も無いって気もするけど)
夜の繁華街で格好いい男の人と二人で何かを待ってるという
ロマンチックといってもいい状況なんだからドキドキぐらいしてもいいよね。
まあ、実際は妖怪を待ってるだけだから
全然ロマンチックじゃないんだけどさ。
いけない、いけない、こんな事かんがえてる場合じゃなかった。
少し恥ずかしくなって隣に立っている龍宮寺さんをそっと見ると
龍宮寺さんは真剣な顔で人の流れを見つめていた。
端正な顔の龍宮寺さんはよく見ると少しやつれているようにも見える。
あたしの視線に気付いていないみたいで真剣な顔して正面を向いている。
その表情は少し怖いくらいだ。
この人は一体どういう人なんだろう?
妖怪ネット―ワークに出入りしてて霧香さん達とも知り合いで
あたしが妖怪だってわかってるのに心配してくれる。
どう考えても普通の人間とは思えないんだけど。
「来た。こいつがそうだ」
あたしは考え事をしていたので龍宮寺さんに言われるまで
不審な人物の存在に気付かなかった。
はっとして視線を移すと目の前に冴えないおじさんが立っていた。
「こいつって・・この人がそうなんですか?」
あたしはまさかと思って小声で聞き返した。
妖怪が人間の時の見かけによらないのはわかってるけど
こんな冴えない風貌のおじさんが
本当にすごい能力を持った妖怪なのだろうか?
ちょっと信じられない。
だけど、あたしはこの妖怪に人間にしてもらう為
わざわざ神戸までやってきたんだ。
作戦通り人間にしてもらわないと。
「あの、あたしを人間にしてもらえませんか?」
あたしはおじさんに聞こえるようにゆっくりはっきりと出来るだけ丁寧にこう言った。
しかし、おじさんの反応は意外なものだった。
「君は人間じゃないか!何を言ってるんだ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ったのだ。
いや怒られたのは別にいいけど「君は人間」ってどういう事だろう?
あたしが妖怪だってわからないんだろうか?
このおじさん、やっぱりただのおじさんじゃないの?
だけど、ここまで来て人間になれなかったら大変だ。
そう思ってもう一度同じ事を言おうとした時
隣に立っていた龍宮寺さんが前に出た。
「菜穂姉を元に戻せ」
龍宮寺さんの声は静かだったが、ゾッとするほどの殺気が感じられた。
あたしに向けて言ったんじゃないけど怖くて口を挟めない。
「何の事だ?」
「昨日の女の子だよ。
お前がやったんだろ?元に戻せ」
今にも飛び掛りそうな様子で龍宮寺さんはおじさんに詰め寄った。
暴力に打って出た時の相手の反応がわからないので禁止だと
霧香さんから言われている。
多分それは龍宮寺さんを心配して霧香さんは言ったんだと思う。
龍宮寺さんもそれがわかっているから
詰めよってはいるが掴みかからないのだろう。
だけどこのままじゃ時間の問題だ。
「昨日の娘なら初めから人間だったじゃないか。
私はなにもしとらん!」
おじさんがこう言った時、あたしは龍宮寺さんに飛び掛ろうと身構えた。
おじさんの喋り方があまりにもむかつく言い方だったので
龍宮寺さんがキレると思ったからだ。
だけど、龍宮寺さんは何もしなかった。
いや、しようとしたが出来なかったのかもしれない。
おじさんはさっきの言葉を捨て台詞に走って逃げたのだ。
あっという間に人込みにまぎれてしまい、もうどこにいるかわからない。
その逃げ足の速さに呆気にとられていると龍宮寺さんが振り返った。
龍宮寺さんが穏やかな表情に戻っていたのであたしはほっとした。
「大丈夫ですか?何か変わりましたか?」
そう言われてハッとなった。
あたしは何か変わったのだろうか?
何かされたようには思えなかったが
もしかすると今の間に術をかけてきた可能性もある。
ここで変身する訳にはいかないのであたしは試しに能力を使ってみた。
あたしはこの瞬間をきっと一生忘れないだろう。
蜘蛛女に変身した時を忘れないように。
聞こえないのだ。
通行人の会話が聞こえない。
何を当たり前の事をと思うかも知れない。
だけどあたしはその当たり前を求めてきたのだ。
耳を澄ましても通行人の会話が雑音にしか聞こえない。
それが普通の人間の聴力なのだ。
これだけじゃ間違いかも知れないのであたしは指先に力を入れた。
地面に向かって指を振る。
何も出ない。
糸が出ない。
きっと周りの人から見たら変な女の子だっただろう。
にたにた笑いながらずっと地面に向かって手招きをしていたのだから。
でもいいのだ。
変な女の子でいい。
まともな蜘蛛女よりずっと良い。
この時は心の底からそう思った。

今日はもう遅いという事であたしは龍宮寺さんの家に泊めてもらう事になった。
といっても龍宮寺さんはまた<かすみ>に戻るそうだから
一緒に泊まるわけじゃないよ。
龍宮寺さんが格好良くてもそれはいくらなんでもね。
タクシーを拾う前に龍宮寺さんは少し話をしてくれた。
龍宮寺さんの話では今は親はいないけど二人の女の人が家にいるらしい。
両方とも<かすみ>のメンバーで一人は戸籍上はいとこの龍宮寺菜穂さん。
この人は元々龍宮寺家を守護する化け猫だから一緒に住んでるのだそうだ。
ただ、龍宮寺菜穂さんはあの妖怪のせいで今は人間の姿にされているらしい。
もう一人は大岩三衣さんといって蛇石から生まれた妖怪だそうだ。
この人は倒れた菜穂さんの為に無理をいって家にいてもらってるんだって。
そもそも霧香さん達が神戸にいるのも、あたしが呼ばれたのも
菜穂さんがあの妖怪に人間にされたからなんだそうだ。
この時の龍宮寺さんの話し方で、あたしはピンときた。
多分、龍宮寺さんは菜穂さんの事が好きなんだろうと思う。
彼女なのかもしれない。
ま、当たり前か。
彼女いないはずないもん、この人。
でもいいんだ、あたしは人間になったんだもん。
これからは誰にも遠慮せずに付き合えるんだ。
タクシーでは下手な事をいえないので黙っていた。
静かにしていても嬉しさが後から後から沸いてきて
歌いだしたい衝動を抑えるのに一苦労した。
それに、先に<かすみ>に帰った霧香さんの言葉もあたしを喜ばせた。
なんと、霧香さんの真実を映す能力でも
人間の姿にしている封印が解けないのだそうだ。
あの妖怪を倒さない限り解ける事はないらしい。
これであたしが心配していた、すぐ効果が切れる可能性もなくなった。
今朝の夢は正夢になるかもしれない。
あたしがそんな浮かれた妄想をしているうちに
タクシーはあっという間に龍宮寺さんの家に着いた。
龍宮寺さんの家は古風な家だったけど大きかった。
龍宮寺さんは夜の暗さに浮かれるあたしに
(あたしは暗視能力があったせいで夜も明るかったのだ)
家の中から出てきた女の人を紹介してくれた。
それから、龍宮寺さんは菜穂さんの様子を聞くと
乗ってきたタクシーですぐに立ち去ってしまった。
この出てきた女の人がさっき話してもらった大岩三衣さん。
薄い茶色の髪であたしよりちょっと長い程度のショートカット。
二十代半ばぐらいの元気の良さそうな美人だ。
「よろしくね、湧ちゃん」
三衣さんは愛想よくあたしを迎えてくれた。
そしてまるで自分の家みたいに慣れた様子でリビングに連れてってくれた。
広い部屋の真中に大きな木製のテーブルが置いてあって
周りを囲むように椅子が置かれている。
龍宮寺菜穂さんはその椅子の一つに腰掛けていた。
短い黒髪に白い肌。それにとにかく小さい顔。
そして、パジャマでもわかるスレンダーな体形。
菜穂さんはあたしと同じ歳ぐらいの、まるで人形のように美しい人だった。
あたし、いつも思うんだけどなんで女妖怪は美人が多いんだろう。
男の妖怪はおじさんとかも多いみたいなのに、
女の妖怪って美人ばっかりなんだよね。
だったら、あたしももうちょっと美人でよかったと思うんだけど。
いや、あたしだってそう捨てたもんじゃないとは思ってるけどさ。
「あの、あたし穂月湧です。
よろしくお願いします」
「あ、うん。龍宮寺菜穂・・です」
・・ど、どうしたんだろう?
菜穂さんが凄く珍しいものを見るような顔してあたしを見てる。
「どうしたの?椅子に座って」
料理を運んできた三衣さんにうながされ
菜穂さんの正面の椅子に座ると菜穂さんも視線をテーブルに移した。
鯛の炊き込み御飯に鶏肉と大根の煮物、いわしの生姜煮。
水餃子にトマトオムレツ、あさりのサラダに豆腐汁。
ごちそうでありながら家庭的な料理の数々がテーブルに並んだ。
三衣さんによると妖怪は好き嫌いが多くて
下手すると○○を食べたら死ぬとかいう奴までいるのだそうだ。
(そう考えるとそんな制約の無い蜘蛛女はマシな方かも)
だから三衣さんは出来るだけバリエーションを増やして作ったのだそうだ。
「蜘蛛女って聞いてたからまあ大丈夫だろうとは思ったけどね」
笑ってそう言った三衣さんはとっても格好良かった。
あたしが来るってわかったのって早くても昼過ぎぐらいだと思うんだけど
こんなご馳走をそれだけの時間で作れるってすごい。
それに三衣さんの料理は
あたしが幸せという事を差し引いてもとても美味しかった。
食事が始まると、すぐに菜穂さんの態度の意味がわかった。
菜穂さんは龍宮寺さんがどうしてたのか気になっていたのだ。
三衣さんに聞かれてさっきまでの事と龍宮寺さんの事を話したら
菜穂さんの顔が明るくなった。
体調は優れないみたいだけど、それからは笑顔も見せてくれた。
いいね、カップルはさ。羨ましい。
でもお似合いだと思うな、あたしは。
へへ、昨日までのあたしだったらこんな素直に祝福する気持ちには
なれなかっただろうけど今のあたしは純粋に応援できる。
なんたってあたしも恋愛していいんだもんねー。
明日からの事を考えると胸が躍る。
お腹も減るってモノさ。
あたしは全く遠慮せずに三衣さんの作ったご飯を食いまくった。
食事が終わると三衣さんは廊下にでて電話をした。
電話の内容は聞こえなかったが、戻ってきた三衣さんが話してくれた。
<かすみ>の方では順調に相手の正体がわかりかけているそうだ。
電話の話はそれだけで終わり、三衣さんはあたしに話を振ってきた。
「ねえ湧は”わざと”なんだよね。そんなに妖怪って嫌だった?」
三衣さんはそういってあたしを見つめてきたのでドキドキした。
同性とはいえ美人に見つめられるとドキドキする。
「・・・はい」
あたしはちょっと迷ったがそう答えた。
妖怪に対して妖怪は嫌って言うのもどうかと思ったけど
変な風にとられるのも嫌だし、それなら自分から話すべきだと思ったのだ。
「なんで?」
「あたしも能力とかは便利で良かったと思いますけど、
エッチな気分になると変身しちゃうってのは…」
「そんな体質だったんだ。あーそれはつらいねぇ。
ん!?という事は湧は今好きな人がいるんだ!?」
三衣さんの言葉に顔がにやけてしまう。
今までは恋愛の話なんてつらいだけだったから、その反動かもしれない。
こんな話が出来るという事が嬉しくてたまらなかった。
「どんな人?格好いいの?」
「あー、ですね。へへ、うん、格好いいですけどー…」
「どういう関係なの?」
「部活の先輩だった人で三条院さんっていって優しくて格好良いんですよ。
あたしの片思いなんですけど・・・」
あたし達はしばらくそんな話で盛り上がった。
こうして三衣さんとこんな話をするのはとても楽しかった。
考えてみると初対面の人と話す内容じゃなかったと思う。
だけど、涌きあがる喜びがおさえられないから
あたしの口は言葉を出さずにはいられなかった。
「菜穂はいいよね。隆がいるもんね」
恋愛話が盛り上がった所で三衣さんが黙っていた菜穂さんに話し掛けた。
「あ、やっぱり二人は付き合ってたんですか」
だろうと思ってたよ、あたしも。
「ちっ、違うってば!そんなんじゃない!」
菜穂さんは驚いた顔で慌てて手を横に振った。
「じゃあ、何なの?」
「隆は当主で、あたしはその守護者だよ!」
「それだけ?」
「それだけ!」
三衣さんは普通に聞いているだけなのに
菜穂さんは少し不機嫌な様子で三衣さんを見つめている。
その様子がすでに二人の仲を証明しているように思えるんだけど。
「でも、隆は菜穂の事好きだよ」
面白そうに口元をほころばせながら
三衣さんがそう言うと菜穂さんは目を丸くした。
「・・・そんなわけないよ」
少しうつむいて菜穂さんが答える。
なんでそんなわけないんだろう?
一回ふられたとか?
それこそ、そんなわけないか。
「なんで、そんなわけないの?」
「っ!!知らない!!」
菜穂さんは三衣さんから顔をそむけるようにテレビの方を向いた。
「じゃあ、なんで隆が誰とも付き合わないんだと思う?
隆がモテるのは知ってるでしょ。なんでだと思う?」
うん、たしかに龍宮寺さんはモテるだろうと思う。
でも付き合うとかは勝手だと思うんだけど
三衣さんもなんかムキになってるような気がする。
なんでかは知らないけどね。
三衣さんが誰にも相手されてないテレビを消すと静かな空気が満ちた。
「なんで、隆ここに帰ってこないの?」
「なんでって・・知らない。隆に聞きなよ」
ありゃ、三衣さんがしつこいもんだから菜穂さんすねちゃったみたい。
けどあたしも玄関まで来て
自分の家に入らない龍宮寺さんは不思議に思ってたんだ。
二人の間になんかあったからなんだろうか?
ドラマみたいな展開にあたしはちょっとドキドキし始めていた。
「いいの、聞いて?」
三衣さんがこういうと菜穂さんは沈んだ表情でうつむいた。
「……駄目」
少しの沈黙の後、菜穂さんは小さく首を振った。
「何があったの?」
ついに菜穂さんは観念したのか、昨日の事といって話してくれた。
あたしが聞いてていいのかなと思ったけど
席を外せとは言われなかった。
菜穂さんが言いにくそうに話してくれた話は凄いものだった。
菜穂さんもあのおじさん妖怪に力を封じられたらしい。
ただ、そこら辺の記憶はちょっと混乱してるからよくわからないらしい。
気が付いたら自分の部屋で寝てたんだそうだ。
そして、自分が妖怪の力を失った事に気付いたので
その事を龍宮寺さんに告げてこの家を出て行こうとしたんだそうだ。
菜穂さんは龍宮寺家を守るために生まれた妖怪なので
守れないのならここにいる資格がないから。
で、当然のように龍宮寺さんは菜穂さんを引きとめた。
そして突然、菜穂さんに抱きついてキスしたと思ったら
何故か龍宮寺さんの方が出て行ったらしい。
菜穂さんは驚きはしたけど別に龍宮寺さんを拒んだわけじゃないそうだ。
好きにしていい、とまで言ったらしい。
だけど龍宮寺さんは飛び出していったんだそうだ。
「隆ったら可哀想・・・」
話を聞き終えた三衣さんがポツリと漏らした。
「可哀想?」
あたしは思わず聞いてしまった。
だって、可哀想なのは菜穂さんじゃない?
力を失ったからって、この家を出て行く決意までしたのに
押し倒されそうになったなんて可哀想すぎるんですけど。
龍宮寺さんなんか酷い人にしか思えないけどな。
「だってさぁ、菜穂が出て行くとか言うから引き止めたわけじゃない。
結果抱きしめてしまった、と。そこでキスしちゃったのは不可抗力でしょ。
隆も男なんだから好きな子を抱きしめたらキスぐらいしたくなるよ。
どう考えても、好きだからって奴でしょ、それは。
それをそういう風に言われちゃったらさー。
菜穂を傷つけたと思って傷ついてるんじゃないの。
隆ったら純情だから」
なるほど、そういう事か。
体だけが目当てだったら菜穂さんが言った「好きにしていい」
ってのは嬉しいかも知れないけど龍宮寺さんはそうじゃなかったんだ。
だから、自分が菜穂さんを傷つけた事を悟って出て行っちゃったんだ。
そういわれれば龍宮寺さんにも同情の余地はあるかな。
「隆、あたしの事好きなのかな…」
話し終えた菜穂さんがうつむいたままつぶやいた。
確実に好きなんだと思いますよ。
あたしがそう言おうとしたら先に三衣さんが口を開いた。
「決まってるじゃない!隆が好きでもないコにキスすると思う?
そういう奴じゃないのは菜穂が一番知ってると思うんだけど」
三衣さんの言葉を聞いても菜穂さんは暗い顔のままだ。
「もしかして、嫌い…なの?」
「違う。嫌いじゃない。けど…」
「けど?」
「あたしは妖怪で、隆は人間だから…」
菜穂さんの言葉にあたしの胸はえぐられた。
浮かれていたあたしの心を醒ますにはこれ以上ない言葉だった。
「・・妖怪じゃ駄目ですか?妖怪だっていいじゃないですか!
好きなんだもん!妖怪でも好きなんだもん!
しょうがないじゃないですか!」
あたしは胸の痛みを吐き出すように言葉を吐き出した。
妖怪と人間・・・。
あたしは妖怪で・・人間・・。
あたしはエッチな気分になっても妖怪の姿に戻らないんなら
問題は解決すると思ってた。
それで万事OKなんだって思ってた。
だけど違うんだ。
そんな事、本当はあたしもわかってた。
あたし達は寿命が無いし、歳をとらない。
滅多な事じゃ怪我すらしない。
妖怪の姿を封じられてても、あたしはやっぱり妖怪なんだ。
「まあまあ、別に菜穂も湧に言ったわけじゃないんだからさ。
いいと思うよ。妖怪と人間が愛し合ったって何の問題もないわよ」
三衣さんの慰めの言葉であたしは少し冷静になれた。
ものすごく失礼な事をしてしまった事に気付いて謝った。
「ごめんなさい」
頭を上げると菜穂さんは悲しそうな顔であたしを見つめていた。
「でも、湧は一族として長く続いてるから人間の子供が産めるんでしょう?
蜘蛛女は子供が産めるってきいてるもの。
でもあたしは違う、親なんていない。
子供も産めない。
隆があたしの事を好きでいてくれるんなら、なおさら駄目だよ。
龍宮寺家を守る為に生まれたあたしが
龍宮寺家の繁栄を妨げるなんて……」
菜穂さんはこの言葉を最後に黙ってしまった。
菜穂さんが部屋に引っ込んでしまったので、話はなんとなくお開きになった。
あたしはお風呂を借りた後、リビングで考え事をしてた。
もちろん、龍宮寺さんと菜穂さんの事だ。
菜穂さんの言葉はあたしの胸に深く突き刺さっていた。
妖怪と人間だから、好きあっていても結ばれない・・・。
菜穂さんの場合は龍宮寺家を守る使命があるからで
あたしはそんな使命はない。
それに、蜘蛛女は子供だって作れるから
菜穂さんが抱えている問題はあたしには関係ない。
だけど、だからって本当に無関係なのだろうか。
あたしは人間と付き合えるのだろうか。
「どうしたの?」
リビングに残ったまま考え事してたら、
お風呂からあがってきた三衣さんが声をかけてくれた。
Tシャツにジャージという油断しまくった格好だけど
三衣さんが着ているととても色っぽく感じられた。
あたしも似たような格好なのにこの差はなに?
「ビール飲む?」
冷蔵庫を覗きながら三衣さんが尋ねてきた。
「あ、はい」
あたしが返事すると三衣さんはビールの缶を二本持って
あたしの正面の椅子に座った。
お礼を言って受け取るとギンギンに冷えたビールのプルタブを開ける。
「かんぱい」
ビール缶がぶつかる鈍い音をさせて、三衣さんが小声で祝ってくれた。
小声なのは菜穂さんに遠慮しての事だと思う。
人間の姿になった喜びが半減してた時だったので
三衣さんの心遣いがとても嬉しかった。
三衣さんは乾杯してにこっと笑うと喉をぐいぐい鳴らしてビールを飲んだ。
その飲み方はもすごく豪快で驚いたけどものすごく格好良かった。
「はぁー、有月のおじさんじゃないけどやっぱおいしいわね」
「三衣さん、有月さんと知り合いなんですか?」
有月さんってのは<うさぎの穴>に所属してる妖怪うわばみのおじさんだ。
あたしが驚いて聞くと三衣さんはきょとんとした顔であたしを見た。
「あっ、湧は有月のおじさんと同じネットワークだったわね。
忘れてた。うん、まあ腐れ縁みたいなそんな感じなの。
同じ蛇妖怪だしウマがあうっていうか・・・そういうのよ」
三衣さんはそういって新しいビールを取りにまた冷蔵庫に向かった。
三衣さん、少し慌ててない?気のせいかなぁ。
「あの、聞きたい事があるんですけど聞いてもいいですか?」
三衣さんが戻ってくるのを待って質問をぶつけてみた。
「いいわよ」
「あの、菜穂さんにしつこく聞いたのはなんでですか?
もしかして三衣さん龍宮寺さんの事・・好きだったりするんですか?」
失礼な質問だったかも知れないけど思い切って聞いてみた。
あたしは怒られるかもしれないと思ってたのだが
三衣さんはあははと笑って手を横に振った。
「違うわよ。そうね、あたしはもっとこう渋い人とかがいいかな。
ああいう子供じゃなくてもっとこう大人!って感じの。
隆も顔はいいんだけど、純情で糞真面目だから。
その上、重度のシスコンだし」
二本目のビールを開けながら軽い調子で三衣さんは笑った。
「じゃあ・・?」
「・・・湧は人間と妖怪が恋愛できると思う?
もちろん正体を知った上でよ、それでも付き合えると思う?」
あたしは返事出来なかった。
今まで出来るって思ってたけど・・・
出来るって信じてたっていった方がいいかも知れない。
そう考えないと自分の正体に押しつぶされそうだったから。
「わたしは、出来ないと思う」
あたしの迷いを断ち切るように、きっぱりと三衣さんは言い切ってしまった。
「さっきはさ、気休めに適当な事言っちゃったけど
女の妖怪と人間の男は結ばれないのよ。
男妖怪はね、天狗とか龍とか結構うまくいった話もあるけどね。
だけど、女妖怪と人間の男が結ばれる話は
ほとんど正体がばれると破綻するじゃない」
たしかに三衣さんの言う通りだ。
正体を知られた上で人間と結ばれた話なんて
ほとんど聞いた事がないような気がする。
そういえばあたしのご先祖も蜘蛛女だとばれて破局したんだった。
「でもさ、そう思うのと同時にそうじゃなくて欲しいなとも思うんだ。
隆は妖怪を化け物扱いしない。
菜穂と暮らしてるからそうなったんだろうけど。
隆は菜穂を妖怪と知った上で好意を持ちつづけてる。
だから、隆と菜穂にはうまくいって欲しいの。」
三衣さんの気持ちはあたしも痛いほどわかった。
妖怪の正体を知った上で
好意を持ち続けてくれる人でも上手くいかないのなら
もう誰だって無理なような気がするもの。
あたしが龍宮寺さんに、あなたも妖怪なんですかって聞いた時の
龍宮寺さんの悲しそうな顔を思い出した。
龍宮寺さんもきっと苦しんでるんだ。
人間と妖怪の間にある壁に。
・・・あたしにもそんな人現れるんだろうか?
あたしの正体を知った上で愛してくれるような人が。
間にそびえる壁を乗り越えようとまでしてくれる人が。
あたしは握っていたビールを三衣さんの真似をして一気に飲んでみた。
少しぬるくなったビールが喉をごいごいと通り過ぎる。
喉の痛みが胸の痛みを中和してくれた。
慣れないことしたもんだから少しだけ涙がでた。
「おおー!いい飲みっぷり」
「へへー、あたしもいっちゃいました。
・・・でも菜穂さんはいいですよね。
あんな格好いい人がいつも傍にいて
正体知ってるのに好きでいてくれて・・
あたしからしたら、羨ましくってしょうがないですよ。
それに正体は猫娘って可愛いじゃないですか。
あたしなんて蜘蛛女ですよ。
猫好きは多いけど蜘蛛好きなんて聞いた事ないですもん」
あたしは調子に乗って二本目のビールを空けた。
体が熱くなってきてるのはわかったけどもう止められない。
「いいじゃん、蜘蛛女。美人で有名だし」
「そうなんですか?」
「そうなのよ。
ただ、その美貌で男を罠にはめて
食べちゃうっていうイメージも一緒にあるけど」
「えー!?」
「まあそんなもんだって。
蛇女だって恨んだり、執念深かったりするイメージがあるからね
怖がられちゃうのよ」
「へー・・」
「大体さ、男ってのは女が弱くないと嫌なんだよね。
だから、女妖怪ってうまくいかないんだと思うよ。
自分より強い女といれるほど自信がないっていうの?」
あたしはおおげさにうなずくと三本目のビールを開けた。
この夜、あたしは三衣さんと女妖怪としての愚痴をぶつけ合い
楽しくビールを飲んで
初めての二日酔いを体験する事になった。

頭痛とともにやってきた月曜日。
朝から<かすみ>に顔を出したら
あたしにできる事はもうないとの事なので
また遊びに来ると約束して昼過ぎに東京に帰ってきた。
(往復の新幹線代も龍宮寺さんに貰った。)
その頃には吐き気も頭痛も大分よくなっていて
人間の姿に固定されたという喜びが全身を支配していた。
ここで家に帰ってれば良かった。
だけど、あたしは調子に乗って三条院さんの大学を見に行ってしまった。
どうせ今日は休みだし会えるはずなんて無かったのだが
万が一にも出会って、万が一にも付き合う事になったとしても
今のあたしなら付き合えるんだって思いがあたしを動かしていた。
失恋は一瞬だった。
三条院さんの通っている体育大学の前に行くと
どこかで見たことのある綺麗な女の人が校門に立っていた。
そこに万が一という確率で三条院さんが現れた。
昨日から奇跡が続いてると思った。
だけどあたしの奇跡はそこで打ち止めになり
三条院さんは待っていた女の人と肩を組んで出て行った。
声をかける暇もなくあたしは立ちすくしていた。
その女の人が三条院さんと同級生だった平林さんだって
思い出した時にはすでに二人の姿は消えていた。
気付かれもしなかったあたしは
その光景をただ見ているだけしか出来ず
ドラマチックに間抜けな失恋をした。
不思議と悲しくなかった。
あー、やっぱりね。
そんな感覚が強くあたしの中にあった。
告白すら出来ずに長かった片思いは終わりを告げ
あたしは他にする事がないので家に帰った。
父さんは出かけていて家には誰も居なかった。
あたしは何をしていいのかわからなかったので
とりあえずベッドに寝転がった。
布団の柔らかさが懐かしい。
楽しかった昨日が不意に思い出された。
ビールがあんなに美味しかったのは初めてだった。
頑張れって言ってくれた三衣さんの優しい笑顔が浮かぶ。
菜穂さんはどうしてるんだろう。
まだ、悩んでるのかな。
龍宮寺さんとうまくいくといいけど。
また神戸に遊びに行きたいなぁ。
三条院さんの顔が浮かんで来た。
思い出しても別に悲しくなんかない。
詩織と亜紀にはなんて言おうかな。
可哀想がられるのもやだし、しばらく黙っとこっかな。
ちょっと胸がムカムカする。
二日酔いはつらい。
こうして見ると天井って結構汚れてる。
ため息をついて首を動かしたら机の上にある大きな水晶が目に入った。
前にラウがくれた奴だ。
失恋したって言ったらラウはなんて言うんだろう。
そんなこと考えてたら、半年前ラウに言った言葉を思い出した。
『可能性はあるって信じてる。信じたいの。
だから、あせらず、のんびり行こうと思ってる』
あの時、ラウは笑ってくれたんだった。
その通りだってうなずいてくれた。
あたし、あせってたのかなぁ。
あたしはあんまり悲しくなかったけど
あの時の自分がちょっとかわいそうだったので
仕方なく泣いてあげた。
どってことない失恋で最悪の月曜日は終わった。
わりと目覚めの良かった火曜日。
あたしはジャングルの中を歩いていた。
何の比喩でもなく、夢でもなく本当のジャングルだ。
池袋の<銀三角>に行って弥々子さんに連れてきてもらったのだ。
弥々子さんってのは河童で昔は悪党妖怪だったんだけど
ラウに欲望を食われて今は大人しい妖怪だ。
水から水へワープする力があるので
ラウの所へ連れてってくれるように頼んだのだ。
人間の男性と女妖怪は上手くいかないなんて三衣さんと話してたけど
考えてみたら上手くいってる人がいたんだった。
鶴田大吉と鶴田弥々子の夫妻だ。
元々は悪党同士の利害関係から手を組んでただけらしいが
なんだかんだで気付けば二人ともちゃんと夫婦をやってるみたいだ。
あたしが頼むと弥々子さんはラウの住む世界に連れてきてくれて
一時したらまた来るといって帰っていった。
ラウの世界は相変わらず太陽が無かったが、今日は霧は割と薄かった。
透き通った水の流れる川を上流へ歩いていると大きな湖に出た。
あたしが呼びかける前に湖の中からラウが現れた。
くちばしの無い白鳥のような頭に大蛇のような体に触手が四本生えた妖怪。
半年振りに会ったラウは相変わらず神秘的な美しさで優しい目をしていた。
『久しぶりだな、湧。会いにきてくれて嬉しい』
ラウの嬉しそうな声が頭に響いた。
ラウは心を読めるしテレパシーで会話できるのだ。
「久しぶりだね、元気だった?」
『ああ、だが湧はあまり元気じゃないみたいだな』
「・・・うん、ちょっとね。
それよりさ、頼みたい事があるんだけどいいかな?」
ラウは心を読めるんだから隠し事したって無駄なのはわかってる。
けど失恋した事はあまり言いたくなかった。
ラウがそこまであたしの心を読んだのかわからないけど
何も言わずにあたしの体を触手で持ち上げて触手の上に座らせてくれた。

 

「出来るかな?」
あたしは昨日考えた事をラウに話した。
あたしの考えとは菜穂さんをここに連れてきて
龍宮寺家を守るという使命だけをラウに食べてもらうという事だ。
それなら龍宮寺さんと菜穂さんは遠慮なしに付き合えるだろうから。
余計なお世話かもしれないけど
あたしもあの二人には上手く行って欲しいし
最終的にやるかどうかは菜穂さんに任せるのだから
出来るのならこういう選択肢もあるという事を知ってもらおうと思ったんだ。
『出来無い事もない』
「出来るの?やった!ありがと、ラウ。
本当にしてもらうかはわからないけど話してみる」
『湧・・・話をしてくれないか?何があったのだ。
話したくないところは話さなくてもいい。
何があったのか聞かせてくれ』
やはりラウにはお見通しだったようだ。
あたしが蜘蛛女の姿になれなくなった事も。
あたしは霧香さんからの電話を受け取った辺りから話をした。
あたしの話はあまりわかりやすかったとは思えないが
ラウはじっと聞いてくれた。
初めは話すつもりは無かったのだが
気付いたらあたしは失恋した事も話していた。
あたしは誰かに話を聞いて欲しかったのだろうか。
ラウに話しながらあたしの目から涙がこぼれ始めた。
なんでかはわからない。
ただ、にじんで見えたラウの瞳はとても優しかった。
あたしが言葉になってない言葉を発していた時、
ラウは触手で背中を撫でてくれた。
涙が一段落するとあたしが座っていたラウの触手が動いた。
少しだけずれてショートパンツの上からではあるが
あたしのふとももの付け根の間にあてがわれた。
そこに体重がかかり、軽い痛みとふわっとした快感が伝わってくる。
ちょっとだけ覚悟はしていた。
ラウはあたしが振られたら花嫁にしてやるって言ってくれてたし
前にやられそうになったように処女を奪われるかも知れないと思ってた。
そして、それでもいいかって気持ちもあった。
ラウはあたしが蜘蛛女でもいいって言ってくれた。
あたしの真の姿を見て、それでもいいって言ってくれたから。
あたしが抵抗しないでいると一本の触手があたしのパーカーの下に潜り込み
胸を包むように巻きついた。
「んっ・・」
胸を優しくまさぐられあたしは思わず声を出してしまった。
その声が思ったより色っぽくてびっくりした。
別の触手があたしの脇の下に廻ってあたしの体をぶら下げた。
食い込んでいた触手がショートパンツのジッパーを下げて入り込み
下着の上からあそこをなで始めた。
最後に余った触手も後ろの方からショートパンツに入り込み
下着の中にまで入ってきた。
触手にお尻を直接なでられて、ぞわぞわが全身を駆け抜ける。
あたしはゆっくりと全身が熱くなっていく中、覚悟を決めた。
ラウにならいいかなって。
ラウは優しいし、いい奴だし、あたしを好いてくれているから。
だけどそれは甘い考えだった。
お尻をなでまわしてた触手はあたしの隙をついて
お尻の穴に入ってきたのだ。
「あっ!駄目っ!」
すぐに力を入れたけど少し遅かった。
触手を入れられたせいでお尻が痛い。
『力を抜いた方がいい、痛いぞ』
力を抜いたらもっと入ってっちゃう。
そんな事出来るわけが無い。
必死にふんばっているとラウはお尻からようやく触手を抜いてくれた。
『ふむ、困ったな。そんなに嫌か?』
うーん、そういわれると困る。
興味が全くないわけじゃないけど、怖い。
処女を奪われる覚悟はしてきたけど
お尻の方をされる覚悟はしてなかったし・・・
『わかった、お前が痛がったら止める事にしよう』
ラウはそういうとあたしのショートパンツと下着を
触手に引っ掛けてずり降ろした。
ひやっとした空気が下半身を包んだ。
裸のお尻を見られていると思うと顔から火が出そうだが
触手をつかんでないと落ちそうな気がして顔を隠せない。
ショートパンツと下着が木の枝に引っ掛けられる光景は
妙にエッチな気がした。
「やっ・・」
ラウの触手はあたしのお尻とあそこを優しくなで始めた。
ぞわぞわむずむずして、くすぐったい。
「・・はぁ・・あぁ・・・」
自分の呼吸音が色っぽく聞こえてきて不思議な気分。
なんだか暑い。
ぬちゃぬちゃという音がジャングルに響き始めた。
『力を抜け。あまり力を入れると痛いぞ』
お腹に巻きついているラウの触手があたしを持ち上げ
お尻を突き出した格好にされた。
あそこを触っていた触手が動きを止めると
お尻にゆっくりとなめくじのような触手が入ってきた。
正直なんだか気持ち悪い。
だけど、とても優しくしてくれているのはわかったので
あたしは出来る限り力を抜いた。
まだ、そんなに入ってないみたいだけど
おなかが圧迫されて息苦しい。
あそこをいじっていた触手がまた動きを再開してきた。
触手はまるであそこを舐めるように触り少しずつ圧迫感が消えていった。
お尻のなかの触手もうねうねと動き出した。
だんだん頭が真っ白になっていく。
いつもならここで弾けるような感覚があって変身していただろう。
だけど今のあたしの体は何も起こらない。
別の衝動が湧き上がってきた。
お腹が熱くなってきた。
おしっこがしたい。
『いいぞ、出せ』
駄目だ、出したくない。
恥ずかしすぎる。
ラウ、降ろして。
もう駄目・・・本当にもうでちゃう。
『恥ずかしがる必要は無い、だしてくれ』
お尻の中を引っかかれ、浮くような快感に体の力が抜けてしまった。
「やっ・・っぁ・・・」
・・・・・・・・・・・・・
やっちゃった。
漏らしてしまった。
恥ずかしい、けど、なんだか今のすごく気持ち良かった。
宙に浮かされておしっこするのが癖になったらどうしよう。
ラウはあたしを普通の、お尻を下にした状態にすると
触手であそこに湖の水をかけてから洗ってくれた。
おしっこして洗われるなんて子供みたいで恥ずかしかったけど
すごく優しい触手の動きが嬉しかった。
洗い終わると触手はまたあそこを撫で始め
お尻の触手はさらに深く入ってきた。
あたしはもう一切抵抗しないことにした。
気持ちよくしてくれるのならそれでいいや。
お尻から入った触手があたしの頭にまで伸びてきて
あたしをエッチに変えていっているような気がする。
「あ・・あっ」
お尻の中の触手が動くたびにあたしの口から声が漏れる。
その声はしびれたあたしの頭でもわかるほど甘くて
自分の声じゃないみたいだった。
頭の中が白くなっていくのがわかる。
キタナイ話だけど、入り込んだ触手がうねうねと動くたびに
あたしはトイレの時の感覚を味わっていた。
し続けているような脱力感は不思議な感覚だった。
あたしは自分が壊れてしまいそうで
脇の下に廻された触手にしがみついた。
あたしの中で触手がぐるぐると回っている。
触手に操られてあたしは踊るようにお尻を振っていた。
あたしがどんなにせつない声をだしても
ラウは動きを止めてはくれない。
おだやかに弄ってくれるのがせめてもの救いだ。
「ぁん・・・」
ヌチャヌチャという音が聞こえてくる。
ぷわぷわと空を歩いてると
あたしの中から何かがこぼれ落ちていく。
時々、全身に電気が走る。
「ぅんっ・・・んっ・・んっ・・」
出し入れされると声が漏れる。
出すつもりが無いのに出てしまう。
ゆっくりと触手が出たり入ったりしている。
ラウにいじられるたびにあたしの体から
いやらしい音がでているのがわかった。
あたしの体はどうしちゃったんだろう。
声をこぼす度に少しずつ意識が薄れていく。
本当なら、とっくに変身してるだろうな・・
『湧、我慢するな
恥ずかしがる事はない』
ラウの声が響く。
あつい。体が内側からやけている気がする。
本当にあたしの体なんだろうか。
鳥の鳴き声が聞こえる。
・・またおしっこが出そうになってきた。
これがイクって奴なんだろうか・・
・・あたし、お尻でいっちゃうんだ・・・
・・・駄目だ・・・ラウが何か言っている・・
聞こえなくなってきた・・・・
・・・どうして?あたし覚悟を決めてきたのに。
『湧は男に振られて、自棄になっているようだった。
処女を失った事を後悔して欲しくない』
お尻にこだわったのって、あたしの事を思ってだったんだ。
確かにあたしは自棄になってかもしれない。
けど、だからって誰だってどうだっていいって
思ってたわけでもないんだけどな。
『それにな、実は私も人間の姿になる修行をしているのだ。
処女の方は人間の姿になってから貰おうと思ってな』
ラウが・・?人間の姿に?
『そうだ。この間、お前が言ってただろう。
そんな姿で花嫁を欲しがるな、と。』
・・・ごめん。確かに言った。
自分の事を棚に上げて酷いこと・・・。
『私は別に傷ついてなどいない、気にするな。
いつになるかわからないが
変身できるようになったらお前を貰いにくる』
ふふ・・うん、待ってる。
だけど、あたしと付き合うなら一夫一婦制を守ってね。
『前もそういっていたな。
なんだ?イップイップセイとは?』
男と女が一人同士で付き合う事だよ。
つまり、奥さんいっぱい作ったりしちゃ駄目なの。
『なんと!?そうなのか!?
・・・・・・・・だが、仕方あるまい。
湧がそうしろというならそうしよう』
ラウったらそんな悲しそうにしないでよ。
当たり前の・・・・な、なに、これ?
『どうした?』
『「っ!!」』
この感覚は・・・。
懐かしく忌まわしい感覚が体内を駆け巡ると
ピクリとも動けなくなっていた体に力が漲っていく。
毛むくじゃらの脚が宙でわしゃわしゃと動いた。
そして、あたしは蜘蛛女になった自分を発見した。
「なんで・・・!?」
『おそらく、湧が言っていた妖怪が倒されたのだろう。
だから封印が解けたのだ』
この間までのあたしだったら怒っていたかもしれない。
倒しただけで封印が解けるなんて思ってなかったから。
だけど、今のあたしは怒る気になれなかった。
あたしは蜘蛛女だから、告白も出来なかった。
だけど、蜘蛛女だから三衣さん達とも知り合えた。
蜘蛛女だからラウと出会えた。
彼氏が怪物ってのも正体が蜘蛛女なのも、そんな捨てたもんじゃない。
それに、あたしは再び蜘蛛女になったけど前とは少し違っていた。
エッチな気分の時でも人間の姿になれるようになったのだ。
なんでかはわからない。
もしかして女の悦びって奴を知ったからだろうか。
しばらくすると弥々子さんが迎えに来たので
あたしはラウにまた来るって約束のキスをしてジャングルを後にした。
人間にも女にもなり損なった火曜日。
あたしは蜘蛛女になった事を喜ぶ自分を発見した。

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